COLUMN

2026/

07/10

【酒蔵から考える】第0回 はじめに

2026年末、私は酒蔵へ戻って十年を迎える。

十年という時間は、一つの結論を得るには短い。
しかし、一度立ち止まり、自分が何を考え、何を実践してきたのかを振り返るには、ちょうどよい節目なのかもしれない。

東京でエンジニアとして働いた後、家業である酒蔵へ戻った。
当時の私は、日本酒業界のことも、経営のことも、酒造りのことも、ほとんど何も知らなかった。

ただ目の前の課題に向き合い、その都度考え、失敗し、また考える。
その繰り返しだった。

日本酒の現場で酒を造り、海外へ足を運び、酒蔵見学や体験事業を始め、特許なども取得し、新たにウイスキー造りにも挑戦してきた。

振り返れば、その一つひとつは独立した出来事ではない。
一つの問いを追い続けてきた軌跡だったように思う。
私をここまで導いてきたのは、答えではなく問いだった。

古くから「知行合一」という言葉がある。

知ることと行うことは、本来一つである。
私は、その考え方に強く惹かれてきた。

実践を伴わない言葉には、どこか軽さが残る。

一方で、行動だけを積み重ねても、その意味を言葉として整理しなければ、経験は次の世代へ受け渡されない。

誰がその言葉を語るのか。
何を見て、何を失敗し、何を積み重ねてきた人なのか。

同じ言葉でも、その重みは人生によって変わる。

学生時代、私は哲学を学んでいた。
当時も同じ本を読み、同じ言葉に触れていた。

しかし、その意味を本当に理解していたとは思わない。
人には、経験を通してしか理解できないことがある。

経営を担い、醸造の現場に立ち、海外へ出て、地域の人々と向き合う中で、学生時代には抽象概念だった言葉が、ようやく現実の手触りを持ち始めた。

思考は人生から生まれる。
そして人生もまた、思考によって形づくられる。

だから今、
一度、自分の思考を言葉として残してみたい。

ここに書くものは、完成した思想ではない。
結論でもなければ、学術的な理論でもない。

十年間、酒蔵という現場で問い続けてきたことを、
自分自身のためにも一度言葉として整理しておきたい。

十年後に読み返せば、考えは変わっているかもしれない。
それでも、その時々の最善を言葉として残しておくことには意味がある。

この連載では、一人の酒蔵の蔵元として、SAKE RE100というプロジェクトを通して見えてきた地域、文化、経営、そして持続可能性について考えていきたい。

一方で、この十年間を振り返る中で、酒蔵という現場を超えて考え続けたい問いも見えてきた。

時間とは何か。
文化とは何か。
日本とは何か。

それらは、この連載だけで答えが出る問いではない。
むしろ、この先も考え続けることになる、生涯の問いなのだと思う。

だから、この連載は完成ではない。

思考と行動を結び直し、その時々の暫定解を書き留めていく。

この連載は、そのための出発点である。

執筆者:西堀哲也

西堀酒造株式会社 六代目蔵元、SAKE RISE株式会社 取締役

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