COLUMN

2020/

09/05

地球という確かさ<相対主義のその先へ>

哲学日本酒相対主義酒蔵

「酒屋万流」という言葉がある。

酒蔵には、各固有の個性があり、各蔵の歴史やポリシー、味はまさに千差万別。
原料や配合を全く同じにしても、酒蔵によって醸す酒は全く同じ味にはならない。たとえば、同じ値段の4合瓶であっても、蔵によってその造り方や環境、規模感は全く異なるといって良い。また、嗜好品である日本酒には、統一的な「美味しい」基準があるわけではない。
もちろん、鑑評会というものはかしこに存在するが、究極的には「美味しさ」の尺度は測れない。ある人にとっては美味しいと思えるし、嫌いな人もいる。同じ人でも、数年経ったら美味しく感じてきたり、TPOで嗜好は容易く変化する。

「相対主義」という考え方がある。簡単に言えば、「人それぞれ違う考え方・価値観だよね」という考え方だ。
古くからある考え方で、古代ギリシャのプロタゴラスという人は、「風は温かいのか冷たいのか」という問いを例に、”ある人には風は温かく感じられ、別の人には冷たく感じられるので、風そのものは温かいのかそれとも冷たいのかという問いには答えがない”と述べた。「人間は、万物の尺度である」(プロタゴラス)という言葉が有名だ。しかし、この相対主義は、それで終わりになってしまう。議論が先に進まないという問題がある。哲学の世界でも、「神は死んだ」のニーチェ以降、現代哲学をはじめ20世紀後半のポストモダンなどはこの色合いが濃厚だ。今、思想界ではマルクス・ガブリエルの「新実在論」など、いわゆる相対主義の袋小路をいかに乗り越えるかという動きがでてきた。たとえば、「人それぞれとはいっても、共通する確からしいもの(価値観)はあるはずだ」「人類が滅亡したあとにも物理的な地球は残るはずだろう」と思うわけだ。特に「個人主義」が称揚される現代は、共有する価値観が薄れていっている。

ロールモデルや正解が無く、共通の目標を持ち帯同することは少なくなってきた。
酒蔵としても、各蔵の個性を伸ばす方向性は必要である。しかし、その「個」の論理を乗り越えた、信じられるものを措定するべきではないかと感じている。「各々が全て正解で、絶対的な正解は存在しないのだから、好き勝手やっていい」と割り切るのも一つのあり方だと思う。しかし、あらゆる天変地異や劇的な社会変化を味わう現代人として、共通する価値観なしに相対主義バンザイで過ごすだけでは、未来の世の中が良くなるとは、到底信じられない。だからこそ、信じられるものを措定し、それに向かってActionすべきではないか。それでこそ、人間の理性発揮というものだろうと思う。信じられるもの、その一つが、まさに「地球(Gaia)」である。地球・自然の恵みを抜きにして、今現在生きていることは実感できないと感じるからである。最もリアルで確からしいもの、それが今足を付けている「地球(Gaia)」だと思う。太陽や水、空気、あらゆる自然の恵みを受けて人類は生かされている。太古の昔、太陽などの自然への敬意を持たれていたことは、世界の宗教史を見てもわかる。地球が壊れれば、当然人類は死滅する。
人は、自然には敵わないし、むしろ生かされている。「相対主義」を乗り越える一つのあり方として、「環境」「自然」「地球」を措定する。SAKE RE100では、このキーワードを軸に、一酒蔵として取り組みを行いたい。

執筆者:西堀哲也

西堀酒造株式会社蔵元、SAKERISE取締役

SUPPORTER企業様

  • COOL TRAST
  • SMART CITY PROJECT
  • 地域自立型マイクログリット研究会

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