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日本酒の風味を伝えるということ

日本酒をお猪口ではなく、ワイングラスで嗜む。
そんなシーンが、業界でも多くなってきました。
香りをより楽しむことのできる日本酒が、ここ数十年の技術発展によって可能となってきたからです。

日本酒の風味を伝えること。これは、良くも悪くも難しい問題です。

今回は、長期低温発酵という日本酒特有の製造方法によって生まれる「吟醸香」を例に、ご紹介します。

日本酒における香りは、主に酵母によって生み出されます。
清酒酵母は、低温でもしっかり増殖し、アルコール濃度に対する耐性も強い性質などがありますが、10℃前半の低温で長期間発酵させることによって、フルーティーな香りが生まれてきます。
酵母が変わると、風味の印象はガラリと変わるため、どの酵母を選択して醸造するかは大きな要因です。

それでは、その「吟醸香」とは、どのような香りなのでしょうか?

一口に「吟醸香」といっても、その中に繊細な違いがあります。
醸造の世界に携わる人や、きき酒を行う方は、一定の指標が存在します。

製造技術者の世界では、それらを「酢酸イソアミル」「カプロン酸エチル」などといった、化学的な表現で評価をするのが通例です。

酒蔵内でのきき酒や、伝統的な鑑評会の審査などでは、これらの用語が短評(メモ)に並びます。

しかし、こうした製造技術者寄りの表現は、消費者の方にとって理解し辛いものですので、裏ラベルの記載などには普通でてきません。

そこで、分かりやすい「吟醸香」の表現として、具体的な果実の香りが用いられます。
例えば、青リンゴや洋ナシ、パイナップル、バナナ、マスカットなどが代表例です。

(独)酒類総合研究所の清酒専門評価者の表現方法では、「果実の香り」は青リンゴとバナナの2種類程度しかありません。
しかし、ワインのソムリエ文化の入ったSake DiplomaやWSETでは、その何倍もの果実表現があります。

最近、果実の香りを全面に押し出した商品が多く出てまいりました。
まだまだ代表的な酵母のパターンばかりではありますが、他にも簡単に切り分けられない複雑な香りの日本酒は無数にあります。
良くも悪くも、言語化することによって生まれるバイアスは、その複雑性や繊細さを覆い隠してしまう側面もあります。

とはいえ、「飲めば分かる」「非言語に委ねる」姿勢が、中々受け入れられなくなってきたのも、時代の流れだと感じています。
まだまだその表現方法は業界としても道半ばなのが事実で、そのような流れを反映していると感じます。

日本酒は、特定の料理から連想されにくく、味の尺度が複雑であるため、特にはじめて日本酒に触れる消費者の方にとって、好みの味を選びにくいともよく指摘されます。

たしかに、わかりにくい尺度や分類ゆえに、手を伸ばしづらい。そんな声をよく聞きます。
だからこそ、具体的な料理とのペアリング、飲み方の提案の重要性はますます増しています。
お酒の側が、ここ数年で風味のバリエーションが非常に多くなってきているので、合わせる料理も何も和食だけに留まるわけがありません。

お酒が活きる・お酒を活かす知見をお持ちのプロ(シェフやきき酒師の方など)のお力は、日本酒業界にとっても非常に大事だとここ最近強く感じています。

西堀酒造六代目蔵元:西堀哲也

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